政策や提案

2005年 11月22日

川辺川ダム問題に関する総合的な提案・申し入れ


熊熊本県知事潮谷義子様                 
                 2005年11月22日

                  日本共産党熊本県委員会 
                   委員長   久保山啓介 
                  日本共産党熊本南部地区委員会
                   委員長   橋田芳昭

この間の川辺川ダム問題での熊本県としての尽力に敬意を表し、以下の点を要請します。


1、治水、利水、五木村再生は、川辺川ダム建設を前提とせず
 さる9月15日、国土交通省は、熊本県収用委員会に対する漁業権収用についての裁決申請を取り下げました。これにより川辺川ダム建設は白紙になりました。
 1998年、熊本県知事、県議会が、基本計画を承認して以後の期間に、任意交渉にもとづく漁業補償案が、球磨川漁協総代会、総会において否決され、利水訴訟では、福岡高裁において国側が敗訴し、判決が確定しました。そして国交省自ら収用申請を取り下げざるを得なくなる状況に立ち至ったわけです。こうした一連の経過と結果が示すのは、川辺川ダム建設計画が、いかに大義と道理に欠ける無理な計画であるかということです。  
 川辺川ダム建設計画が発表されてからやがて40年。これまで水を待ってきた農民・農家、昨年の台風16号、今年の14号による球磨川、川辺川流域での相次ぐ被害、一日も早い再生、振興をと願う五木村―「待ったなし」といったこうした状況に対応するためには、「ダムありき」という前提を取り払い、利水、治水、五木再生の課題に対処していくことが求められています。。
 

2、利水について
@さる9月19日の川辺川利水訴訟原告団・同弁護団声明は、「今回の収用裁決申請取り下げにより、川辺川ダム建設計画は白紙となり、本年8月の新利水計画の策定に向けた農家のアンケート調査結果は、そのかぎりで不正確なものとなった。そこで、現在、事前計画で示した水源案からダム案は取り除いて新利水計画は策定すべきである。私たちは、水に色はないのであって、より早く、より安く、安定した水を届けることができるダム以外の利水案に関係者各位の理解を強く求める」と述べています。今後、新利水計画づくりを進めるうえで、「よリ早く、より安く、安定した水を農民・農家に届ける」ことを原則とすること。
 長く水を待ってきた農家のために、暫定水源の確保、既存の用水路、堰の回収を早急に行うこと。

A「水の押し付けはしない」という立場が重要です。利水問題のそもそもは、水が必要とされるところに、要望(要請)に応えて水を引くというものです。「どこに水がいるか」を押さえて、どうしたら水が届けられるか、ということで具体化が進むよう努めること。

B03年6月から県が綜合調整役としてすすめられてきた新利水計画づくりのための事前協議体制は、しかるべき役割を終えるまでは、堅持・継続すること。


3、治水対策について
@96年の河川審議会答申(治水対策におけるダムについてはふれられていない)、97年の河川法改正(環境、地方の意見重視など)、00年の河川審議会答申(治水対策として霞提等の効果と活用など)等について、県としても、十分に検討・研究し、「ダム偏重」の姿勢を頑なにとる国交省・九州地方整備局に対して、建設的・具体的な提案、意見を示していくこと。

A昨年の台風16号、今年の14号で被害が生じた地域・地点について、その原因と対策を具体的に明らかにするよう国交省に求めること。

B八代地区については、萩原堤防の強化堤防化、人吉地区では、中河原周辺など通常水位以上にたまった土砂の撤去、人吉橋左岸の改修、内水排水施設の整備、中流域では、宅地のかさ上げなどの改修、荒瀬ダム・瀬戸石ダムによる堆砂の撤去など、球磨川本川上流域では、堤防、道路のかさ上げ、遊水地の整備と農業被害への補償、河床にたまった土砂の撤去などについて、調査、検討、具体化を求めること。
 芦北町漆口地区は、昨年、今年と人命の危機にもつながりうる甚大な被害に見舞われているがこうした地域については緊急に対処すること。

C人吉地区の浚渫、中流域の改修のスケジュール、八代・萩原の強化堤防、深堀れ対策の全体計画を明らかにするよう国交省に求めること。

D9月6日午前10時の市房ダム情報「非常体制前の通知」は、ダム操作規定19条にもとづく但し書き操作(放流量を流入量に等しくなるまで増加させる)について通知し、河川下流の水位の急激に上昇する厳重な警戒を求めています。
 ダムによる超過洪水、河道の貯留効果による上流域のダムの洪水調節効果の減殺、ダム放流と内水災害など、ダムと治水についての研究、検証もあらためてなされるべきです。

E新河川法にもとづき球磨川の河川整備基本方針、河川整備計画策定のスケジュールを明らかにするよう求めること。

F川辺川県管理区間については、昨年の台風16号、今年の14号に被害地点を調査し、必要な対策を具体化すること。


4、環境問題について
@「環境立県」をうたう熊本県として、清流日本一の川辺川、球磨川水系の豊富な自然、歴史、文化、八代海の再生などの課題と川辺川ダム建設について、現時点であらためて検討すること必要です。
 白紙になった川辺川ダム計画は、実施方針(次官通知)より基本計画の告示が2年早かったということにより、法に基づく環境アセスメントが実施されてきませんでした。総貯水量―1億3300万?、水没面積―391ha、ダム本体の高さー107・5m、ダム提の最大幅―274mといった、大規模な公共事業、しかも山、川、海へとつながる自然の宝庫ともいうべき地域での大型公共工事を環境アセスもやらないで強行するということは、本来絶対あってはならないものです。
 国交省主催の住民討論集会における環境問題の討論では、環境問題の専門家、漁民などから、ダムによる水質への影響、アユなど魚族への影響、八代海への影響、希少生物への影響などについて、重大な懸念と具体的な疑問点が出され、国交省の「専門家の指導をうけながら詳細な調査を行った」という説明では、専門家、住民、漁民の納得を得ることはできませんでした。
 然るにダム計画が白紙になってもなお、環境問題を一顧だにせず「ダム推進」の立場に固執している国交省の態度は、川辺川、球磨川と流域の環境を守り、八代海の再生を求める多くの住民・県民の思いを無視するものであり、河川法改正(環境重視)の趣旨にも著しく背くものです。 
 環境の面からも、川辺川ダム建設計画は中止し、ダムを前提としない、利水、治水対策、五木村の再生を図るべきです。

A熊本県は、有明海・八代海再生のための方針と政策をたて鋭意取り組みを強めています。再生のためには、異変がなぜ生じたかの原因究明が必要です。原因究明のひとつとして、近年川から海への土砂の供給に関する研究成果が明らかにされています(首都大學東京・横山勝英「筑後川における土砂動態の現状と再生方策」熊本県立大学・堤裕昭「有明海再生方策―アサリ資源回復方策」)。これらは、ダム・堰により川から海への土砂の供給が激減すること、緑川河口、荒尾における覆砂によるアサリの回復と河川土砂の供給の重要性を指摘しています。
 80年間に2160万立方メートルの土砂供給をカットする川辺川ダム建設が、八代海再生に深刻なリスクを与えることは疑いありません。
 熊本県の最大資源の一つである八代海の再生の課題と土砂の供給は切り離しがたいものです。川辺川ダムの中止、荒瀬ダム撤去に続く、既存ダムについての検討は避けられないものです。
   
 台風14号後、長期にわたり川辺川の濁りが続いた問題で、漁民などから砂防ダムが原因との指摘と原因究明および対策が国交省に寄せられています。アユの生息にとって重要な問題であり、県としても適切に対応すること。

5、川辺川ダム建設と財政
@住民討論集会において、八代地区については、80年に1度の洪水でも、川辺川ダムなしで耐えられることを国交省も事実上認めています。八代地区での洪水防御効果をゼロにすると費用対効果は1を大きく下回ります。国交省に対して、こうした事業をあくまで強行するのではなく、治水対策については、ダム以外の他の有効策を具体化するよう求めること。大手ゼネコン受益型の巨大ダムでなく、地域内再投資力の高い、森林の整備、河川改修等に国・県の財政を活かしてこそ、地域経済活性化にもつながるものです。

A昨年、川辺川ダム建設事業費が2650億円から3300億円に大幅増額になるということが内部文書の発覚という形で明らかになりました。増額に伴って県の負担もさらに増えることになります。国・地方の財政危機が深刻化するなかで、多額の財政を増幅的に吸収する川辺川ダム建設計画は、行財政の改革、財政支出の見直しという点からも、シビアに対処すべきです。今後、300億円を超える負担を県に求める川辺川ダム建設は、「県財政の現状、見通しから困難」との立場を率直に表明すること。

B2000年から2004年までの川辺川ダム関連の調査費(九州地方整備局分)は93億円にものぼり、同時期の球磨川の改修費(110億円)にも匹敵する多額のものです。この調査費について
イ−調査報告書等については、過去のすべてのものを処分することなく保全し、公表の対象とすること。
ロ−ダムが白紙になった現在、ダム建設を前提とした調査費は計上しないこと。現在の予算については、執行を停止すること。
ハ−球磨川関係予算の総枠は確保し、調査費分は、喫緊の課題である改修費、森林整備費に当てるよう求めること。
ニ−財団法人・ダム水源地環境整備センターへの発注(31件、15億円)がすべて随意契約になっている根拠、実施した調査の説明、公表を行うこと。


5、五木村の再生・振興をはじめ、地域おこしを、ダム抜きで
@五木村の再生・振興は、ダム建設と切り離して、国・県の責任で、敏速、総合的に推進すること。大橋、中学校建設の促進を求めること。
 振興策については、地元の声をくみ上げながら、政策的にも、財政的にも、国・県一体で積極的、総合的に進めること。

A人吉・球磨地域、球磨川流域、八代海などの自然、歴史、文化、資源を生かした地域振興をはかること。そのためにも川辺川ダム建設には同意しないこと。




日本共産党熊本県議会議員 松岡徹
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