政策や提案

2004年 11月12日

熊本駅前周辺整備事業に関する提言

熊本県知事 潮谷義子 様
 熊本市長 幸山政史 様

     熊本駅周辺整備事業に関する
         日本共産党の提言 その1


    −森と水の都・熊本の表玄関にふさわしく−
     県民・市民の英知を結集して21世紀型の駅に

                                      

はじめに
 九州新幹線鹿児島ルートの全線開通に対応して、1997年に、県、市で熊本駅周辺整備事業の役割分担を協定で定め、「副都心化」にむけ、事業を促進してきました。しかしながら、そのリーデイング事業とされた「東A地区再開発事業」が行き詰まるなど、「副都心構想」そのものをはじめ、駅周辺整備事業は抜本的見直しを迫られているのが実状です。日本共産党はこれまでも駅西土地区画整理事業など駅周辺整備事業の問題点を、「住民こそ主人公」並びに「全県・全市的な視点」でただしながら、その時々に必要な提言をしてきました。今求められている整備事業の見直しは、抜本的に、かつ市民参加でなされるべきものですが、そうした討議を進める上でも、今回、日本共産党としての必要最小限の提言を行うことに致しました。ぜひとも多くの県民・市民の意見が反映されるきっかけにしていただきたいと存じます。

1、 見直しが迫られる背景について
 1997年の県・市協定において、「民間活力」を導入して進める地区として東A地区再開発が位置づけられ、最優先事業とされました。その後、県知事・市長によるトップセールスをはじめ、大型商業施設やホテルなどの誘致、公共施設の導入による誘導策など、必死の取り組みが進められてきたにもかかわらず、事態を打開できず、民間による再開発は断念せざるをえない状況に立ち至りました。ここに従来の駅周辺整備事業計画の矛盾が典型的に現れていると見なければなりません。この点を直視して、なぜ駅周辺事業の見直しが迫られているのか、明確にすることが求められているのではないでしょうか。次の4点に集約されると思われます。
@ 当初計画は、「高度成長期待型」の「副都心構想」となっていましたが、もはや、人口減少・高齢化の「成熟型社会」に向かいつつあることは明らかです。それに見合う計画への転換が求められています。
右肩上がりの成長を想定し、交流人口も過大な想定がなされていましたが、現実には、2007年から全国的に人口減少の時代に突入し、熊本市を始め地方中枢都市でも2020年前後から人口が減るのは確実となっています。経済も大幅な成長はのぞめなくなっています。したがって、現実に合わせて計画を修正しなければムダで過大な計画となります。
A 「再開発型」の「ハコモノ」整備を進めてきた全国の駅前開発がほとんど失敗しており、ハード重視からソフト重視への転換が求められています。
土地の価格の確実な値上がりと経済成長を前提とした駅前再開発計画は、全国的に見ても、ほぼ例外なく破たんしています。駅前に関しては百貨店を始め大型商業施設が進出を中途で断念したり、逆に撤退するなど、90年代以前では想像できなかった事態が起きています。終着駅効果さえ期待できない熊本駅にとってはいっそう厳しい状況にあることは明らかであり、この点を直視すべきです。
B 全国どこの新幹線駅前も再開発ビルが林立し、サラ金会社が一番目立つ場所にあるなど、その都市らしさが消えてしまっている中で、熊本駅は、「森と水の都」「歴史と伝統」を大事にして、「くまもと」らしさを感じることができるようにすることこそ、時代のニーズ、県民・市民の願いにかなうものです。
C 国も県も市も、90年代に過大な公共投資を進めた結果、いまや深刻な財政状況に直面していることはご承知の通りです。そうしたなかで、従来型の過大な公共投資を優先すれば、福祉や教育予算のさらなる縮減となり、財政危機をさらに深める要因ともなります。しかし、少子化と高齢化が進行する中で、福祉や教育を切り縮めることは不可能であり、すべきではありません。財政論的にも効率的な公共投資への転換こそが求められています。

2、 まず熊本駅とその周辺の位置づけを明確に
  現在の県・市協議では、駅周辺の「副都心」としての位置づけはそのままにして、計画の修正・見直しを進めようとしています。これでは的確な見直しが出来るとは到底考えられません。
もともと「副都心構想」そのものが、社会経済情勢の見通しを見誤った無理な構想でした。このことは、この間の状況の変化を直視すれば、はっきりしてきます。これまで「都心」と位置づけられてきた中心市街地さえ困難に直面しています。ご存知の通りここ数年を見ても、壽屋に続いてニコニコ堂の倒産、岩田屋伊勢丹百貨店の破たん、さらに九州産交の産業再生機構による「再建」などが相次ぎ、中心市街地は深刻な打撃を受けました。その後、中心市街地再生の必死の取り組みがなされてきたものの、熊本都市圏においては商業と交通・住宅を中心に郊外型が急速に進展し、今後も加速しそうな状況にあり、その結果、絶対的な優位を保っていた鶴屋百貨店さえも苦戦を余儀なくされています。桜町・交通センター一帯や新市街周辺の空洞化・疲弊も目立つようになりました。都市機能の柱である商業・業務機能について統計的にみてみますと、ここ10年間で、商店数は2600店舗も減少し、なかでも卸売業は4分の1もなくなってしまいました。こうして熊本市における年間商品販売額も約7千億円も減少するまでに落ちこみました。事業所数も毎年500近くも減り続け、新幹線開通が引き金になるのではと心配されていた大企業の支店・営業所の閉鎖・引き揚げも開通を待たずに進行しています。こういうなかで、駅周辺をむりやり「副都心」と位置づけ、中心市街地の都心機能を分散させれば、中心市街地がさらに深刻な事態に直面することが予想されます。
駅周辺はあくまで熊本市と熊本県の表玄関です。したがって、玄関口にふさわしい整備と公共交通結節機能を強化する方向で位置づけるべきではないでしょうか。県民・市民の多くも、現状を見て、「表玄関として、いかにも寂れている。これでは、胸を張って熊本に来て下さいとは言えない。せめて新幹線開通までになんとかして欲しい」というのが共通した思いではないでしょうか。

3、 駅前は全国に誇れる「森と水の都・熊本」にふさわしいものに
  では、どうすれば玄関口にふさわしいものに出来るのでしょうか。県民・市民が誇れるものを胸を張ってうち出すことです。駅舎・駅前広場、駅前(とくに東A地区)の整備に当たって、なによりも重視すべき視点は、県の「ユニバーサルデザイン」であり、市の「環境保全都市宣言」「地下水保全都市宣言」「森の都都市宣言」です。そうしてこそ、全国どこにもない、熊本らしさを感じ、与えられる駅・駅周辺をつくることが出来ると考えます。
  具体的には、駅舎においては「阿蘇の雄大な自然」「熊本城や水前寺・江津湖の緑と水」「菊池水源や通潤橋」などが体感できるゾーンの工夫、駅前広場は緑がいっぱいのパークステーションにするのが一番妥当だと思います。
  東A地区については、民間による再開発という手法を断念せざるを得なくなったのであれば、公共施設による誘導策も必要ないわけですから、市が用地取得した上で、森の都にふさわしい駅前公園として整備してはどうでしょうか。そうしてこそ駅前広場のパークステーションとの相乗効果が発揮されることになります。そして、その先に、坪井川、白川の水辺親水公園を整備すれば、文字通り「森と水の都・くまもと」が駅前に新たに誕生することになります。またそれは、当然、白川・坪井川をきれいにしようという市民運動に発展していくことでしょう。そうなれば、現在の「さびれた駅前」から、県民・市民が誇りを持って「ぜひ一度、新幹線で熊本にきてみてください。全国どこにもない素晴らしい駅前ですよ」と胸を張って言える駅前に生まれ変わるのは疑いありません。
  日本共産党は、以前から東A地区の再開発ビル計画については、先に述べた時代背景の変化からみて、明らかに無理があることから、計画の変更を求めてきました。やはり予想したとおり組合施行が暗礁に乗り上げてしまいました。ところが今度は市施行による大型公共施設の建設を進めようと検討が始められています。そうなれば、用地取得費にとどまらず、多額の建設費も必要になり、数百億円の事業とならざるをえません。あくまで大型施設建設にこだわる必要がどこにあるのでしょうか。「副都心構想」にしがみついているからとしか思われません。熊本市の危機的な財政状況の下で、強行すれば財政面はもちろん、市政のあらゆる分野にゆがみをつくりだし、重大な問題を引き起こしかねません。まして、市立図書館を中核施設として建設する計画など論外です。図書館は玄関口である駅前にどうしても必要な施設ではありません。現市立図書館の別館が中心市街地に必要というのであれば、今でも十分活用されていない産業文化会館の5階から下の階を活用すれば、「費用対効果」という点から見ても駅前の何倍も効果が大きいと思われます。東A地区の活用計画については、「ハコモノ」建設にこだわらず、発想の転換をして、県民・市民の声をしっかり聞くべきです。

4、 将来を見据えた交通結節機能の強化を
  新しい熊本駅にとって、将来にわたる交通需要をふまえた交通結節機能の強化は待ったなしとなっています。その点で、現在の駅周辺整備に関連した道路整備には大きなが問題があります。駅前道路の拡幅や東西の円滑な交通という点で最小限必要な整備はすべきですが、駅西土地区画整理の中ですすめられている万日山トンネルをふくむ30メートル道路などは可能であれば今からでも変更すべきだと考えます。
  熊本駅で降りた人がどこに向かっていくのか、また県民・市民の利用状況はどうなるのか、もちろん、それは今後の観光政策等により違ってくると思われますが、それも含めて需要を出来るだけ正確に分析すべきでしょう。そのうえで、中心市街地をはじめ市内各地とのスムーズな結節方法、阿蘇や矢部・清和、あるいは天草などの観光地との結節方法をはじめ、充分な検証が求められます。いずれにしても、最短距離で、しかもわかりやすく、移動しやすい方法を実現しなくてはなりません。
  その点で、まず、第1に、中心部へスムーズに移動するためには市電との結節が最も重要となります。そのためにも、現在のように最も遠い位置ではなく、可能な限り乗り換え地点に接近させる方法を検討すべきでしょう。同時に超低床電車をさらに積極的に導入すべきだと考えます。
  第2に、バスへの乗り換えは、とくにわかりやすさが求められます。また現交通センターとの機能分担も充分な検証が必要です。この点でも、「副都心」と位置づけるのか、それとも「玄関口」と位置づけるかで大きく違って来ることに注意を払うべきです。現交通センターは都市圏バス交通の結節点として、そして熊本駅に新たに設置するバスターミナルは交通センター及び県内の観光拠点を始め各地域との結節を主たる機能として考えるべきでしょう。
  第3に、空港や港との結節が最重要といった見解もあるようですが、この点でも需要に見合う検証が求められます。もちろん駅と港、空港が最短距離・最短時間で結ばれることにこしたことはありませんが、現実には東西に分離している状況下で最優先と言うことには無理があると言わざるをえません。一つの案として長期的な検討課題とすべきでしょう。それよりも中心部との結節、住宅地との結節、阿蘇など観光地との結節が急がれるのではないでしょうか。
  第4に、駐車場についても長期的な視点からの検討が必要です。この点では、熊本市が将来的にどのような交通体系にするのかと言うことと一体不可分です。公共交通優先のシステムを本気で構築したいのであれば、駐車場は最小限にすべきでしょう。しかし、現状の交通体系ではかなりの駐車場を必要とします。中長期的視点に立って計画の提案が求められており、市の説明責任が求められる問題でもあります。

5、 いまとくに遅れているのは「ハコモノ」ではなく、ソフト面での充実です。
  いま熊本の観光で全国的に最も注目されているのは黒川温泉です。東京方面では「行ってみたい温泉地」のナンバーワンとなっていますし、湯布院と結んだツアーが大人気です。若い女性にもとても好評です。まだ「田舎」が残っていることが注目されているのです。一方で従来型の大温泉地は苦戦しています。また一世風靡したテーマパークは少なからず破たんしています。
  ここからみてとれるのは、都市部の市民が観光に求めているのは、従来の「歓楽」や見物ではなく、「癒しの場」ということではないでしょうか。また都市を訪れる人々はそのまちの「歴史や文化を体験したい」「美味しいものを食べたい」ということが主目的のようです。熊本市がそれにこたえる状態になっているでしょうか。熊本は有数の農業県であり、天草や有明海の豊富な魚介類もあります。歴史や文化も他都市に負けない誇れるものを持っています。そして何よりも世界一の阿蘇に支えられた地下水とともに生きるまちです。医療・福祉部門も充実しています。これらを生かしきれば「健康」「食」「歴史・文化」どれを切り口にしても、「一度は訪れてみたいまち」に成長・進化するのは間違いありません。
  しかし、そのためには、ハコモノからソフト重視に発想を転換することが求められています。

6、 県民・市民総参加で駅周辺整備とまちづくりを
  いずれにしても、駅周辺整備にまだ県民・市民の一部の声しか反映されていないことが一番の問題です。たしかに「協議会」等がもうけられてそれなりの検討がされてはいますが、駅舎や駅前については「熊本の顔」となるところですから、県民的な合意がはかられることが必要です。
「駅前はまちの顔」「市民の財産」という気持ちで市民みんなが力を合わせようという機運が大事ではないでしょうか。具体的には、市民アンケートを実施した上で、それを集約して専門家集団を中心にした「検討委員会」でイメージデザインを作成して、それをもとにさらに市民の意見を求めるなど、何度か双方向で意見集約して駅舎と駅前広場・公園のデザインを決定していけば良いでしょう。こうして、市民みんなの知恵で作り上げることができれば、何よりの財産になるに違いありません。日本共産党としても、全国に誇れる熊本駅をめざして、今後ともさまざまな角度から、建設的提案をしていきたいと考えています。



日本共産党熊本県議会議員 松岡徹
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