質疑・討論の主な内容
2007年 2月 定例会 3月15日
●「全国学力テストに関する意見書」についての主旨説明
日本共産党の松岡徹です。岩中伸二議員と共同で提出しております議員提出議案第10号「全国学力テストに関する意見書」について、提出者としての説明を行います。
 文部科学省は、4月24日に全国すべての小学6年生と中学3年生を対象に「全国・学習状況調査」を実施しようとしています。この全国学力テストは国際的な学力テストの結果が取り上げられてから、当時の中山文部科学大臣が「競争意識」をそだてるためにと、突如その必要性を言い出したものであります。

教育バウチャー制度について
 学力テストは結果の公表とセットになって親の学校選択性へとつなげていき、これに学校や教師への外部評価制度が加わって、最終的には親たちが利用券(補助券)をもらって学校を選ぶいわゆる「教育バウチャー制度」に道を開くものであります。これは親の選択権がひろがるかのようにみえますが、実際は、生徒がたくさん集まる学校にはお金をあげるが、集まらない学校はつぶれていいという「弱肉強食」の発想であります。これは、エリート教育だけを手厚くしようとするものであり、憲法で保障された教育の機会均等を否定することにつながるものです。

いじめによる自殺、不登校、暴力事件など悲鳴を上げる子どもたち、学ぶ喜びを見出せないでいる子どもたちの問題を学力テストは解決することができるのでしょうか。
 国連子どもの権利委員会は、日本の子どもたちが、「高度に競争的な教育制度のストレスにさらされ、子どもが発達のゆがみをきたしていること」や「学校嫌いの数が看過できない数になっていること」を懸念すると表明しています。OECD調査で「学力世界一」と注目を集めたフィンランドの例をひくまでもなく、学力向上に必要なことは、政府の強調する競争の強化ではなく、学校が子どもたちにとって安心と信頼に満ちた学の場となるよう、教育条件を整え、学校の自主性や創造性を回復することであります。
 日本の教育は、「全国いっせい学力テスト」の実施が大きな弊害をもたらした過去の苦い経験を持っています。平均点をあげるために、成績不振の子どもをテスト当日欠席させる学校が現れるなど教育と無縁の実態が広がり、わずか4年で中止に追い込まれました。
 
今回の学力テストに教育委員会として全国で唯一、不参加を表明している愛知県犬山市は、教師による副読本づくりや少人数学級、学校単位の学力テストなど、独自の教育政策を進めています。
 犬山市の教育長は、今回の学力テスト不参加について「測る学力がテストの得点力でしかなく、犬山のめざす『自ら学ぶ力』ではない。点数化の集計は避けられず、自治体や学校が序列化される。学校現場で正答率を上げる教育が広がるのが心配。さらに全国一律の調査は地方分権の流れに逆行している」と述べています。
発達に即さず系統性を欠く学習指導要領、子どもたちの生活から切り離された「過度に競争的な教育」など差別と選別の教育の推進、一人一人の子どもへの対応を困難にする多人数学級、教職員のゆとりや教育の自由を奪う管理教育の改善こそいまもとめられているのではないでしょうか。
 
個人情報保護に関する問題点
また、学力テストには、個人情報保護に関する問題点が新たに出てきています。
 昨年実施された全国学力テストに向けた予備調査では、「質問紙」の回答用紙に、学校名、男女、組、出席番号とともに、名前を記述するよう求めています。質問は、生活習慣や人間関係、教科の好き嫌い、など92項目にも及びます。「今すんでいる地域が好きか」など内心に関わる質問、「あなたの家には本が何冊くらいありますか」など家庭環境にかかわる質問が多数あります。
 これらの個人情報を文部科学省が一手に握るだけではありません。テストの回収、採点、集計、発送業務は民間企業に委託します。小学校は進研ゼミで知られるベネッセコーポレーション、中学校はNTTデーターが教育測定研究所・旺文社グループと連携してあたります。受験産業が業務を請け負うのです。
 質問には、塾や稽古事に関わる質問も少なくありません。「一週間に何日、学習塾(家庭教師を含む)に通っていますか」と質問し、答えも「毎日」「6日」「5日」「4日」「3日」「2日」「1日」「通っていない」の8項目を用意するほどの念の入れようであります。
 個人名まで書かせて、通塾状況をこれほどまでに詳しく質問すること自体、伊吹文部科学大臣が「特定の営利企業が国民の税金をもって、自分たちに有利なデーターを独占的にとることがあってはならない」と国会で(2月21日衆院文部科学委員会)述べている行為ではないかとまさに思うものであります。
 民間企業が請け負う学力テストをめぐっては、最近も山梨県と長野県の15の小学校約2000人分の個人名入りデーターが紛失する事故が起こっています。全国学力テストで得られる個人情報は、このような紛失事故の比ではありません。
 文部科学省の担当官は、「外部漏えいについては懸念しているが、厳しく対応していく。教育現場の負担にならないよう民間に依託した。テストの実施だけで40億円かかる。07年度予算では学力テスト関連予算として66億円を計上している」と述べております。
 学力テストの実施に当たっては、かねてから疑問の声があがっていたにもかかわらず、多額の税金を投入するうえに、あくまで企業任せの対応に、全国各地で「納得できない」の声が広がっています。
 子どもたちの確かな学力形成とすこやかな成長を求める立場から、また、個人情報保護の観点から、全国学力テストを中止する意思の表明を求める議員提出議案第10号の採択を願い、提出者としての説明を終わります。



日本共産党熊本県議会議員 松岡徹
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